週刊読書マラソン

積読消化をめざすささやかな悪あがきの記録

田中洋子編著『エッセンシャルワーカー』(4)

週刊読書マラソン第9号は引き続き、田中洋子編著『エッセンシャルワーカー―社会に不可欠な仕事なのに、なぜ安く使われるのか』(旬報社、2023年)です。なんとか読了することができました。しばらく忙しい日が続くので、来週はライトなものを読みつつ、更新ペースを取り戻していけたらと思います。

 

 

本書の構成(のうち今回読んだところを抜粋)

●第Ⅳ部
運送、建設工事、アニメーション制作のリアル
仕事を請け負う個人事業主の条件悪化

第1章 トラックドライバー 首藤若菜
第2章 建設業従事者 柴田徹平
第3章 アニメーター 松永伸太朗、永田大輔

●第Ⅴ部   
働き方はなぜ悪化したのか
そのメカニズムと改革の展望

第1章  「女・子ども」を安く働かせる時代を終わらせる  田中洋子
第2章  公共サービスの専門職を非正規にしない  田中洋子
第3章  市場強者による現場へのしわよせを止める 田中洋子

結語 田中洋子

旬報社より)

 

本書の面白かったところ、新しく学んだところ

第IV部は、主に個人事業主の条件悪化を論じていました。極めて不勉強なことに、トラックドライバーや建設業従事者というのは、かなりの重労働であるかわりに、必ずしも大卒資格を要さず、比較的高収入を得られる仕事であるという風に認識していたので、その認識を改めさせられました。他方で、第V部第3章で示されているように、それぞれの業界の中から改革の動きが広まっていることは、希望を感じさせました。

第IV部のうち、アニメーターもなかなか興味深かったです。例えば、ミュージシャンや俳優、お笑い芸人など、輝かしいエンターテイメントの仕事というのは、「ウィナーテイクスオール」のイメージだったのですが、確かに考えてみればアニメーション制作というのはチームでの仕事に他ならないわけで、そういうモデルがあてはまらないというのは目から鱗でした。また、現在のように3ヶ月ごとにアニメが入れ替わるという慣行も歴史的にはそれほど長くなく、収益性との兼ね合いから生まれたものであり、それがクリエイターたちのネットワークを形成する阻害要因になっていること、原画のプロセスが分かれることによる弊害といったものも新たな学びでした。

全然関係ないのですが、私はアニメの『SHIROBAKO』が好きだったので、確かに安原絵麻の暮らし向きはよくなさそうだったな……などと、フィクションとごちゃまぜにしながら読んでいました。章末では、制作進行の仕事がアニメーターのネットワークに果たす役割を解明することが今後の課題とされていましたが、SHIROBAKOの主人公が宮森なのも偶然じゃないんだななどと思いました。

 

第V部は基本的に総括プラスアルファとして、現在の改革の機運や今後の展望が描かれていました。私が最も印象に残ったのは、やはり第1章で総括されていた第I部だったように思います。つまり、元々非正規雇用というのは、家族賃金体制での扶養の範囲内での賃金+補助的な業務という2つの前提であったものが、家計の主たる担い手になってしまったり、アルバイトにさせるべきとは思えない基幹業務を負わされてしまったりと、歴史的に用いられてきたロジックはもはや崩壊しているのですが、にもかかわらずそこに対して「転勤の可能性がないから」というロジックをかぶせることで非正規雇用を正当化しているというインチキがまかり通っているわけです。IKEAやイオンの改革例が挙げられていましたが、このインチキに関しては、本書が射程としていたエッセンシャルワーカーだけでなく、多くのホワイトワーカーにもしばしば用いられているようにも思えます。本書が広く読まれるなかで、労働に対する公正な待遇のあり方について、もっと声があがることを望みます。