週刊読書マラソン

積読消化をめざすささやかな悪あがきの記録

田中洋子編著『エッセンシャルワーカー』(1)

今週も1日遅れの更新になってしまいました。週刊読書マラソン第6号は、田中洋子編著『エッセンシャルワーカー―社会に不可欠な仕事なのに、なぜ安く使われるのか』(旬報社、2023年)です。

コロナ禍で注目された「エッセンシャルワーカー」に光を当て、その社会的重要性に比してなぜ待遇が劣悪なのか、その構造と打開策を明らかにした大著です。大著なので、全然読み終わりませんでした(言い訳)。じっくりと読み進めていきたいと思います。

 

 

本書の構成(のうち今回読んだところを抜粋)

●第Ⅰ部  スーパーマーケット、外食チェーンの現場
フルタイムとパートタイムの処遇格差‒‒—ドイツとの比較
 第1章 日本のスーパー  三山雅子
 第2章 ドイツのスーパー 田中洋子
 第3章 日本の外食チェーン 田中洋子
 第4章 ドイツのマクドナルド 田中洋子

旬報社より)

本書の面白かったところ、新しく学んだところ

今回読んだ第I部は、スーパーマーケットと外食チェーン産業に焦点を合わせた章が並んでいます。現在では早朝から深夜まで当たり前のように営業している日本のスーパーマーケットが、それほど歴史のあるものではないこと、雇用をめぐる状況の変化によってパート従業員への依存度が徐々に高まっていったことが明らかにされています。

また、日本の外食チェーンについては、ファミリーレストランとカフェが事例として挙げられており、しかもその実態が当事者への克明な聞き取り調査によって記述されている点は非常に興味深かったです。どちらも大変な仕事であることは言うまでもないですが、特にカフェのマネジャーの仕事については、いくらなんでも時給1000円前後で学生が担うには重すぎる仕事なんじゃないの、とやるせない気持ちになりました。

スーパーマーケットに関しては、実際の仕事内容よりも、正社員かアルバイト/パートかという雇用形態や転勤の可否によって待遇があまりにも違う、極めて複雑怪奇な制度であることが示されており、これはメンバーシップ雇用を取る民間企業全般に共通する特徴であろうと思いました。これに対して、編著者である田中氏は、ドイツのスーパーマーケットとマクドナルドを事例に、仕事の種類で賃金体系が決まり、労働時間による比例配分を行う、シンプルな雇用のあり方を紹介しており、この点は素直に勉強になりました。

他方で、雇用の問題は法制度や教育システムとも不可分に結びついていることも事実です。実際、ドイツのマクドナルドで働くことが職業教育と結びつくルートも4章で紹介されていました。このシンプルな雇用システムをひとまず肯定的に評価するとしても、日本で導入するうえでの障壁などが個人的には気になりました。

例えば、正社員の解雇規制をゆるめる(=正社員の特権性を削っていく)アプローチも導入プロセスのなかでは必要になるかもしれませんが、ともすると5年雇い止めルールと同じような帰結を生み出しかねなさそうな気もします。あるいは、当該企業のなかの労働者のプールに対して大きな比重を占める従業員に対して、この賃金体系で雇用をした場合に経費の大幅な増大となる、といったことがあれば、(経営者側から見た)持続可能性が低そうです(その場合は労働組合等、労働者側の働きかけや最低賃金政策による誘導がより重要なファクターになってくるでしょう)。このあたりの課題について気になりましたが、もしかしたら最後の第Ⅴ部で論じられるのかもしれないので、腰を据えて読み進めようと思います。