週刊読書マラソン

積読消化をめざすささやかな悪あがきの記録

祐成保志・武田俊輔編『コミュニティの社会学』

週刊読書マラソン第16号は、祐成保志・武田俊輔編『コミュニティの社会学: Sociology of Community Life』(有斐閣、2023年)です。あまり読まないジャンルの社会学の本なので、それなりに読むのに時間がかかりました(当然のようにまた1週スキップ)。

 

 

本書の構成

序章 コミュニティへのまなざし(祐成保志・武田俊輔・渡邊隼)
第1部 つなぐ──コミュニティの枠組みと働き
 1 家なきコミュニティの可能性(植田今日子)
 2 危機に対応するネットワーク型コミュニティ(小山弘美)
 3 「職」「住」をシェアする──アクティビストたちの自治コミュニティを中心に(富永京子)
第2部 さかのぼる──コミュニティという概念の由来
 4 「想像の共同体」としての国民国家と地域社会(武田)
 5 コミュニティを組織する技術──都市計画とソーシャルワーク(祐成)
 6 共同の探求・地域の希求──戦後日本社会におけるコミュニティの需要/受容(渡邊)
第3部 つくる──コミュニティの生成と再生産
 7 “住民参加による環境保全”の構築──コモンズとしての生態系(藤田研二郎)
 8 居場所の条件──コモンズとしての住まい(祐成)
 9 更新されるコミュニティ──変化のなかでの伝統の継承(武田)
終章 コミュニティの動態を読み解くために(武田・祐成)

有斐閣より)

 

本書の面白かったところ、新しく学んだところ

個人的に面白かったのは、1章、2章、3章、4章、7章、8章あたりでした。このうち、具体的に面白いなと思ったところをいくつかピックアップします。

1章は、家(ie)なきコミュニティとして、必ず通過する死という出来事によって、地域による弔いが継承されている様が描かれていました。そこで引用されていた民俗学者の坪井洋分の一生の円環図に興味を惹かれました。この円環図では、人の一生が「成人化過程」「成人期」「祖霊化過程」「祖霊期」に4分されており、死は人の一生の折り返し地点に過ぎないという捉え方がされていました。しばしば持ち出されるクリシェとして、人は二度死ぬ、一度目は肉体的に死んだときで、二度目はみんなに忘れられたとき……みたいなのがあったと思いますが、この後者こそが「先祖」になる過程として捉えられているのが個人的には面白かったです。

2章は、1章と異なり土着のコミュニティというよりも、災害といった共通の危機を経験することによって生じるコミュニティが取り上げられていました。最終節で、「共通の認識」は災害のような危機ばかりでなく、楽しい出来事の共有によってももたらされうるという示唆がなされていました。個人的には、今ドラマでやっている「VRおじさんの初恋」が思い浮かび、そういったVR空間での共通の経験みたいなものもまたコミュニティ形成の契機となりうるのだろうなどと考えました。ドラマでは、サービス終了が迫るVRゲームという設定でしたが、終わりゆく世界を一緒に楽しむというのも、一つの経験のあり方だよななどと思いを馳せました。

4章は、国民国家や地域社会の形成過程が詳しく見られてそれ自体面白かったのですが、とりわけ最後の柳田國男の問題提起が、生活綴方などと通じるようにも読めて印象に残りました。

7章の環境保全コミュニティでは、やはり「順応的ガバナンス」という考え方が参考になりました。医療や科学の知見が浸透する難しさはコロナ禍でも経験されたように思いますが、特に柔軟な目標設定の仕方などは示唆に富んでいます。

個人的に一番面白く読んだのは、8章の団地コミュニティでした。街の満足度が人間関係に左右される、つまりソーシャルキャピタルと深く関わっているという社会学の調査も興味深かったですが、何よりコモンズとしての協同組合の取り組みが、不動産の金融化への対抗実践として学ぶところが多かったです。日本も不動産価格が高騰し続けていますが、「持ち分」という考え方のもとで住む選択肢があってもよさそうです。