週刊読書マラソン第17号は、岡野八代『ケアの倫理―フェミニズムの政治思想』(岩波書店、2024年)です。明らかに週刊ではなくなってきましたが、月刊よりは更新頻度が高いので、まだ粘りたいと思います。
ケア倫理はちょうど一度きちんと勉強したいと思っていたので、この新書はまさに待ってましたという感じでした。新書ではありながら、かなり丁寧に書かれた重厚な著作です。
本書の構成
序 章 ケアの必要に溢れる社会で
第1章 ケアの倫理の原点へ
1 第二波フェミニズム運動の前史
2 第二波フェミニズムの二つの流れ――リベラルかラディカルか
3 家父長制の再発見と公私二元論批判
4 家父長制批判に対する反論
5 マルクス主義との対決
第2章 ケアの倫理とは何か――『もうひとつの声で』を読み直す
1 女性学の広がり
2 七〇年代のバックラッシュ
3 ギリガン『もうひとつの声で――心理学の理論とケアの倫理』を読む
第3章 ケアの倫理の確立――フェミニストたちの探求
1 『もうひとつの声で』はいかに読まれたのか
2 ケアの倫理研究へ
3 ケア「対」正義なのか?
第4章 ケアをするのは誰か――新しい人間像・社会観の模索
1 オルタナティヴな正義論/道徳理論へ
2 ケアとは何をすることなのか?――母性主義からの解放
3 性的家族からの解放
第5章 誰も取り残されない社会へ――ケアから始めるオルタナティヴな政治思想
1 新しい人間・社会・世界――依存と脆弱性/傷つけられやすさから始める倫理と政治
2 ケアする民主主義――自己責任論との対決
3 ケアする平和論――安全保障論との対決
4 気候正義とケア――生産中心主義との対決
終 章 コロナ・パンデミックの後を生きる――ケアから始める民主主義
1 コロナ・パンデミックという経験から――つながりあうケア
2 ケアに満ちた民主主義へ――〈わたしたち〉への呼びかけあとがき
参考文献
本書の面白かったところ、新しく学んだところ
本書を読んで、今まで個人的に一番誤解していたなと思ったのは、生産労働と再生産労働によって成り立つこの社会が生産至上主義となっており、そのうえで再生産労働が周縁化・不可視化されていることが批判されており、本来は両者は両輪のようなものなのだ、と捉えていたことです。この考え方だと、あくまで公私二元論の図式を前提としているところから抜け出せていないわけで、両者を統合したより新しい社会を構想するラディカルな思想が求められているのだと理解しました。また、私的領域が政治から切り離されて不可視化されていることが政治の帰結であるという批判も興味深かったです。
ギリガンの読み直しなども勉強になったのですが、特に印象に残ったのはマーサ・ファインマンの婚姻制度批判でした。母子関係よりも切れやすいと考えられる配偶者関係である婚姻(性愛関係)が、特権的な保護を受けることに対する批判はなるほどなと唸らされました。安全保障や気候変動とケアの関わりも面白く読みました。
自分の分野とのつながりでいえば、教育における能力主義(卓越性の追求)批判などにもケア倫理の視点は応用できそうだと思いました。能力や卓越を目指すのをやめようというよりかは、多元的な教育の目的論を築くのに役に立ちそうです。
ジェンダー論を全く知りませんという人にはちょっと難しいかもしれませんが、ケアの倫理について(本質主義的な誤解をすることなく)しっかり学びたいという方には強くおすすめします。