週刊読書マラソン

積読消化をめざすささやかな悪あがきの記録

藤間公太『代替養育の社会学』

週刊読書マラソン第14号は、藤間公太『代替養育の社会学―施設擁護から〈脱家族化〉を問う―』(晃洋書房、2017年)です。また1週空いてしまったので、某手帳よろしく「ほぼ週刊」などと名乗った方がよいかもしれません。

本書の著者とは面識はないものの、ちょっとしたご縁のある方ということもあり、興味深く読ませていただきました。

 

本書の構成

第1部 理論編―子育てをめぐる社会化言説と家庭化言説の併存(子育ての社会化論の問題構制―“支援”と“代替”をめぐって;家庭ロジックの支配性とその生成過程)


第2部 実証編―集団性の機能と退所をめぐる困難(施設養護のフィールド調査―児童自立支援施設Zに着目して;職員の集団性の効果;子どもの集団性の効果;退所をめぐる困難―家族再統合の諸相と自立規範の逆機能)


「住み込んでいること」の強み―小舎夫婦制施設でのインタビューから


結論と今後の課題

紀伊國屋書店より抜粋)

本書の面白かったところ、新しく学んだところ

読後感としては、問題意識と主張が極めて明快でラディカルな博論本という印象を受けました。家庭で育つ子どもに対する「子どもを社会で育てる」ための「支援」と相反する、社会的養護の家族主義を問い直すという立場に立ちながら、施設養護での丹念な調査を踏まえて、代替養育が家庭養育と連続性をもちつつも、「代替」にとどまらず肩を並べるような〈脱家族化〉のヴィジョンを示しています。これだけの興味深い研究を4年で博士論文にまとめられていることに、頭が下がるばかりです。

施設養護の事例検討においては、職員の集団性と子どもの集団性がそれぞれもつ意義、そして退所をめぐる困難が示されていました。特に興味深かったのは、集団性と個別性が素朴に想定されるような二項対立的なものではなく、集団性が個別性の保障を可能にするという事例でした。これは、集団一斉授業の中で個が表出するという、佐藤学の授業研究でいうところのオーケストレーションみたいなものと通ずるものがあるように思いました。

また、家族の再統合が必ずしも家庭復帰オンリーではないという諸相を示している点も面白いです。こういった支援は現場の知恵的な戦略のなかで「距離化」を図るなどとして行われていることが示されていますが、そうした実践上の戦略から脱家族的なベクトルが導出されるというのはとてもわくわくしました(子どもみたいな感想)。確かにこうした子どもたちにも家庭復帰を促すことが、子どもの最善の利益になるとは限らないですよね。

他方で、最後まで難しいなと思ったのは「代替」の意味合い?でした。施設養護を始めとする代替養育を家族「支援」の延長線上に位置づけることで、家族を「格下げ」するという脱家族化の試みは面白いものの、等価といえるほどまでのオルタナティブになりうるのかを突き詰めて考えると難しいようにも思いました。本書が言うように、代替養育には集団性の強みがあり、家庭に寄せることを別に志向しなくてもよいのではないかという意味では、確かにオルタナティブたりえると思います。もっとも、施設養護に限らず非家族がケア圏・生活圏を担う養育の場が同等の選択肢になるのかと考えれば、そこまではならないだろうとも思ってしまいます。

私は教育でいうところの「多様な教育機会の確保」のイシューと重ねて考えたのですが、学校とは異なる学びの場が学校と同等の選択肢として選ぶことができる未来は、(もちろん質の担保を始めとする数々の論点はありますが)想像がつきます。それに対して、施設養護に限らず非家族がケア圏・生活圏を担う養育の場が同等の選択肢になるというのが、家族から子どもが生まれてくるという仕組みと、子どもの最善の利益を考えることが難しいせいもあるかもしれませんが、なかなかイメージがつきませんでした。また、代替養育のなかでも本書が焦点を当てていない、里親などの家庭的な養育をどのように擁護できるかという問題もあります。

本書が最後に提出しているケアの多元的モデルはとても示唆的で、オルタナティブの「どれか」を択一的に選ぶモデルを取らなくてもよさそうではあります。例えば米国のホームスクーリングでは学校に登校することを認めることもそれなりにあるようです(宮口誠矢さんの研究が詳しいです)。つまり、さまざまなケア主体となりうるアクターが子どもにかかわるという養育のあり方は展望できそうです。ただこの点も、現代の共働きの家族(やひとり親)の場合、短くない時間を保育園に預けるなど家族以外が子育てに関わることも決して珍しくない、とも考えることができます。本書の射程である社会的養護を離れたときに、家庭養育の側が現状でどの程度「家族主義」だといえるのか、「子育ての社会化」と代替養育はどのように結びつくのか/すれ違うのか、このあたりも色々と問いが広がりそうなように感じました。

まとまりがなくなりましたが、本書を読むなかで今まで家族社会学研究は全然目配せしてこなかったことを反省しました。考えてみれば、子どもの養育の問題はまぎれもなく教育なわけですから、(少なくとも教育学から見れば)隣接領域の一つといっても過言ではないようにも思います。本書の野心的な試みに胸を打たれるとともに、今後は家族社会学関係の積読もきちんと読み進めていきたいな……と思わされました。