週刊読書マラソン

積読消化をめざすささやかな悪あがきの記録

トーマス・S・マラニー、クリストファー・レア『リサーチのはじめかた』

明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。

1日遅れての更新になってしまいましたが、週刊読書マラソン第5号は、トーマス・S・マラニー、クリストファー・レア『リサーチのはじめかた―「きみの問い」を見つけ、育て、伝える方法―』(安原和見訳、筑摩書房、2023年)です。

極めて広いくくりでいえば、研究方法論の本とも言えなくはないですが、研究対象に迫るメソドロジーの本でもなければ、『できる研究者の論文生産術』のような研究生活の方法論というのとも異なる本で、どちらかといえば研究を始める前の問いの磨き方のような本です。題名の通り、研究を始める手順みたいな感じで、リサーチクエスチョンを形づくるところ、先行研究がどこにあるかを把握して踏まえるところ、予算の申請書や論文を書き出すところ、あたりまでがこの本の射程のように見えました。

 

 

 

本書の構成

はじめに

第1部 自分中心の研究者になる

 第1章 問いとは?

 第2章 きみの問題は?

 第3章 成功するプロジェクトを設計する

第2部 自分の枠を超える

 第4章 きみの〈問題集団〉の見つけかた

 第5章 〈分野〉の歩きかた

 第6章 はじめかた

おわりに

『リサーチのはじめかた』筑摩書房公式サイトより抜粋)

 

本書の面白かったところ、新しく学んだところ

本書のスタンスは極めて明確で、問いとは自分自身のなかにその萌芽があり、したがって内側から問いを打ち立てていかなければならないということがかなり強調されています。また、「テーマ」と問いは異なるということも、特に第1章・第2章において言い方を変えて何度も提示されています。

本書が強調している「問いは自己の内側から生まれるものである」ということは、一見当たり前のようで、実際にそれを徹底することは難しいことでもあるように思います。例えば、大学院生であれば学振特別研究員の申請書(とりわけDC1)を意識すると、キャリアの初期で業績となる成果を早く出さなければとプレッシャーを感じることがあります。本書にもあるように、外向けに申請書を書くことは、研究開始のプロセスのなかでもかなり後のステップで行うことのはずなのですが、手っ取り早く人に研究を説明できるようにならなければと思うと、自らの問いを深めることがおざなりになってしまうということは起こり得るでしょう(少なくとも私は身に覚えがあります)。まずは自己の問いとしっかり向き合って磨くことが大事、というのはその通りであるように思います。

もう一つ本書の面白いと思ったところは、第3章でプロジェクトの可能性が論じられていたところです。問いそのものが興味深いものであったとしても、卒論・修論・博論ではそれぞれかけられる時間やリソースが異なりますし、研究者本人の気質やおかれている状況によってフィールドワークが難しいなどということもあります。そのようなさまざまな制約のなかで現実的に可能なプロジェクトを考えるという視点が論じられているのは、個人的には新鮮に感じました。

というわけで、挫折を繰り返しながら七転八倒研究を続けてきた身としては、「確かになあ」と思うところが多い本だったのですが、では修士の時に本書を読んだら迷いなく研究をできたかというとそういう自信もあまりありません。いくつか理由はありますが、本書で挙げられているプロセスやたとえ話などがあまりにも具体的過ぎて、当の本人が自分の現在地を把握するのは意外と難しい本なのではないかなと思ったのが一番大きい理由です。

どちらかというと、第6章にあったように、研究生活をある程度経験した人が、大学院生など他者の研究のプロセスに示唆を与えようと思ったときに、そのアプローチの一つとして勉強になる本なのかなと思いました(私の勘が悪いだけかもしれませんが……)。また、職業研究者以外でリサーチに関わる人が本書を読んだらどんな感想を持つのかな、ということも気になりました。