週刊読書マラソン

積読消化をめざすささやかな悪あがきの記録

村上祐介・橋野晶寛『教育政策・行政の考え方』

週刊読書マラソン第4号は、村上祐介・橋野晶寛『教育政策・行政の考え方』(有斐閣、2020年)です。

教育政策を専門としている東大のお二人の先生が書かれた教育政策・行政の教科書で、従来の個別の教育政策を論じる「トピック型」ではなく、理論的な概念や政策選択の対立軸をベースにしているところに本書の特徴があります。

 

 

本書の構成

序 章 本書の考え方と理論的問い
 第Ⅰ部 価値の選択
第1章 自由と規制
第2章 量的拡充と質的拡充
第3章 投資としての教育と福祉としての教育
第4章 選抜と育成
第5章 教育における自由と平等
第6章 投入と成果
 第Ⅱ部 価値の実現
第7章 事前統制と事後統制
第8章 権力の集中と分散
第9章 統合と分立
第10章 集権と分権
第11章 民主性と専門性
第12章 個別行政と総合行政
終 章 教育政策・行政のこれから

教育政策・行政の考え方 村上 祐介(著/文) - 有斐閣 | 版元ドットコムより引用

 

本書の面白かったところ、新しく学んだところ

自分はこの分野に疎いので、学んだところを挙げれば枚挙にいとまがないです。個別的な新しい学びとしては、北欧の高等教育機関はemployabilityとの関係から職業教育機関としての性格が強い(したがって、日本のような文学部・理学部は少ない)こと(第1章)や公教育の根拠を事業主体ではなく教育内容に求めると、事業主体の規制緩和を誘発すること(同章)、教員の人件費問題における教員数と給与水準のトレードオフ(第2章)、日本と免許更新制、メンバーシップ雇用との整合性の悪さ(第4章)、機会の平等と結果の平等の峻別の困難ディストピアとしてのメリトクラシー(第5章)、NPMとネオリベは必ずしもイコールではないこと(第7章)……など、ざっくり絞っても恥ずかしながらこんなにありました。

今挙げたように、第1部の「価値の選択」の論点はどれも興味深かったですが、個人的には自分の専門とも重なる第5章の自由と平等の価値の議論は特に示唆に富んでいました(と同時に、今までの不勉強をかなり恥じました)。他方で第1章〜第4章は授業などでもふれることが多そうなテーマで、とにかく興味を惹かれました。

第2部の「価値の実現」は、そもそも日本の教育行政のあり方について詳しくないので、第7〜10章についてはその議論そのものよりかは既存のシステムの組み立ての方が勉強になったというところはあります。ただ、その後の第11・12章は、村上先生のご専門が民主性と専門性のジレンマのようなので、熱がこもっているように感じられました。民主性と専門性の話は、司法でも裁判員裁判などには特にあてはまると考えられますし、今後も自分なりにより考えてみたい論点でした。

最後の読書案内も非常に親切でありがたいです。教育行政・政策分野を専門とする学部生や、大学院進学を目指す人には必携の中級者向け教科書だと感じました。常々感じますが、教育行政・政策の畑の人たちの「科学的」なスタンスとか、バランスの良さは見習うところが多いですね……。

 

今年の週刊読書マラソンの更新はこれでおしまいになります。よいお年をお迎えください。