週刊読書マラソン

積読消化をめざすささやかな悪あがきの記録

青田麻未『「ふつうの暮らし」を美学する』

お盆ですね。週刊読書マラソン第20号は、青田麻未『「ふつうの暮らし」を美学する―家から考える「日常美学」入門―』(光文社、2024年)です。

 

 

本書の面白かったところ、新しく学んだところ

そもそも美学が哲学の仲間であることも知らなかったので、各章で示される個々の知見や論点はどれも興味深かったですが、個人的に一番面白く感じたのはたぶん、美学という学問の議論の仕方、考え方みたいなものだったように思います。そういうところが論点になるのだなとか、先人の議論をそういう風に批判するのだなとか、そういった自分が慣れ親しんでいるものとは異なるディシプリンの新鮮さ(でも共通点も多くあったと思います)が印象に残りました。

あと具体例が多く取り上げられていたのも読みやすかったです。特に挙げられている漫画やドラマなどの中には、私も見たことがあるものもいくつかあったのですが、それでも例えば「いちばんすきな花」などは自分はぼーっと見ていたので、著者が本書の中でしていた意味付けなどはまったく思いつきませんでした。

4章の地元の散歩の話を読んでいて勝手に思ったのは、「聖地巡礼」ってどう意味づけられるんだろうということでした。もちろん全く行ったことがない土地に「聖地巡礼」することもあると思うのですが、例えば同じ生方美久の「silent」の聖地巡礼で賑わった世田谷界隈なんかは、(下北沢などを除けば)東京暮らしの人からすればそれほどわかりやすく新奇性にあふれた場でもない気もします。それでも、ドラマで見たあの景色だ!と思って世田谷に来るのは、地元とは違うけどドラマを見ているからこその「親しみ」や、凡庸な景色をドラマの風景と重ね合わせる「新奇さ」など、また特有の美的経験がありそうだな、みたいな適当なことを思いました。

あとは、具体例が多かっただけでなく、5章から終章にかけての美学の「実践」との距離も面白かったです。個人の実践に世界を少しずつずらしていく可能性を見出すところは、社会科学とも重なるところは小さくなさそうです。